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1-4 バーゲニング演習


バーゲニング演習(議事録)
於:抽選議院議員会館仮説議場


 抽選院議員会館七階にある仮設議場は、仮説と名付けられるだけあって
こじんまりとしていた。十七人分の席と机が環状に配置されていて、それ
がほぼ全てだった。議員の定数より多い十七番目の席はきっと抽選議院議
長の分の席だろう。
 先ほどの昼食会でも乾杯の音頭を取ったAIがその空席の脇にいて、年代
と性別順に席についた議員達を見渡して言った。

AI:「では、みなさんお揃いになりましたので始めます。私がみなさんに
 質問しますので、答えが『はい』なら挙手を。『いいえ』であれば手を
 挙げないで下さい」
牧谷:「どちらでもない場合は?」
AI:「今回は練習ですので、必ず『はい』か『いいえ』でお答え下さい」
牧谷:「分かった」
AI:「では、目をつぶってください」
 AIは確かめるように間を置いてから言った。

AI;「晴より、雨」

 おれは、手を挙げなかった。

AI:「ではみなさん、目を開けて下さい」

 手は四本しか挙がっていなかった。

AI:「『はい』が四、『いいえ』が12。2/3の10票以上が『いいえ』に
 投じられましたから、抽選議院は今、『晴より、雨』という判断を否定
 しました。
  実際の法案決議の際に行って頂くのも、基本的には、今やって頂いた
 事の繰り返しになります」
青月:「本番でも目をつぶらなきゃいけないの?」
AI:「いいえ。では、次の質問に参ります。
 今回は、目を開けたまま、『はい』か『いいえ』を挙手でお答え下さい」
牧谷:「誰かに相談するのは?」
AI:「無しです。投票が終わるまでの間、私語は謹んで下さい。
 では、質問します。『紅茶より、コーヒー』」

 ぱっ、と挙がった手は2、3本だった。残りの大半の手は挙げられかけ
ては下がったりした。おれは、周りの人の様子を伺いながら、迷っていた。

AI:「1分以内に、挙手する方は挙手をお願いします」

 結局、迷いながら挙がった手は、おれ自身のを含めて8本だった。
 AIは投票結果を手元のシートに記録すると、次の質問に移った。

AI:「では、次のステップに進みます。
 次の質問は、『うどんより、そば』です。
 5分以内に、2/3の評決を形成して下さい。
 今回は、周りの方と相談されても結構です。
 それでは、始めて下さい」

 いきなりそう言われても・・・。
 実際、どうしていいのか分からず、助けを求めるようにきょときょとす
る人が大半だった。
 だが、10秒も経たない内に、奈良橋さんが立ち上がって言った。

奈良橋:「うどん派の人、手ぇ上げぇ!」

 奈良橋さんが、がばっと挙げた手の勢いに釣られて、自分とその他4本
の手が挙がっていた。

奈良橋:「なんや、6人か。でもこれで10人、2/3やな?」
AI:「みなさんの2/3は、『うどんより、そば』にYesの判定を下しました。
 ただし、ここにある1票を加えると・・・」

 AIは、手元にあった封筒を破り、中に入っていた『いいえ』と書かれた
カードを議員達に見せた。

AI:「ご覧の通り、ここには『いいえ』と書かれています。全体が17票に
 なった瞬間、10票は2/3でなくなり、この判断はさらなる討議を必要とす
 ることになります」
奈良橋:「なんやその1票は?」
牧谷:「議長さんの1票ですか?」
AI:「そうです。
 それでは、次のステップに進みます。
 二つの質問をしますので、それぞれ挙手でお答え下さい。
 『チョコレートより、まんじゅう』」

 結果は、チョコが7、まんじゅうが9だった。

AI:「では続けて、『本より、テレビ』」

 本が9、テレビが7だった。

AI:「投票結果に議長票を加えると、一問目の議決が、チョコ7、まん
 じゅう10。
  二問目の議決が、テレビ8、本9となります」
七波:「これでまた2/3を形成すればいいのかい?」
AI:「そうです。ただし、答えの片方はゆずらないで下さい。
  それでは、制限時間15分以内でお願いします。始めて下さい」

 そう言うと、AIは二つの質問の投票結果を各議員の前に映し出した。


  中目:   チョコ、テレビ
  白木:   まんじゅう、テレビ
  二緒:   チョコ、本
  奈良橋:  まんじゅう、本
  内海:   まんじゅう、テレビ
  牧谷:   チョコ、本
  鈴森:   まんじゅう、テレビ
  増満:   まんじゅう、テレビ
  青月:   チョコ、本
  轟:    まんじゅう、本
  クリーガン:チョコ、本
  藍沢:   チョコ、本
  七波:   チョコ、本
  赫:    まんじゅう、テレビ
  春賀:   まんじゅう、本
  八神:   まんじゅう、テレビ
  議長:   まんじゅう、テレビ

内海:「おまんじゅう食べながら、テレビ見るのって、なんか幸せになる
 よね」
八神:「暖かい緑茶は欲しい所ですな」
増満:「やはり、あんこですよね!ああ、食べたくなってきた!」

 一同がどっと笑った。

七波:「チョコレートつまみながら、本を読むのもおつなもんですよ。熱
 いコーヒーは外せないねぇ」
牧谷:「同感です」
奈良橋:「わいはまんじゅう食いながら、本読むけどな。んで、どう2/3
 作るねん?」
藍沢:「やはり、少数派の人が多数派に移動した方が良いでしょう。その
 逆は厳しいでしょうから」
鈴森:「どうして?」
藍沢:「えーと、一問目が、チョコ7、まんじゅう10。二問目が、テレ
 ビ8、本9。お互いに片方ゆずりあったとして、チョコからまんじゅう
 に移動するなら1人で済みますが、逆だと4人必要になります。同様に、
 テレビから本なら2人なのに、逆は3人となります」
赫:「みなさん、もっとわかりやすく、答えは出てませんか?」
クリーガン:「片方はゆずらないで下さい、と制限をかけられてるけど、
 両方とも少数派の人が一人だけいますね・・・」
中目:「そ・れ・は、あったしでーす!」
轟:「ふーん、お嬢ちゃんがそうだってのは、わかった。でもよ、どっち
 かを多数派にすりゃ済む話じゃねぇのかい?」
中目:「えっとね~、それは私の答えをどちらかに変えるってことだけ
 じゃなくて、少数派を多数派に変えるってことになるの」
轟:「ならよ、どっちか片方の多数派はそのままで、もう片方の少数派を
 多数派にしてやりゃ、話は済むんじゃねぇのか?」
中目:「ん~と、それじゃ、せっかくだから仕組みを解説しちゃいまーす!
 AI、組み合わせ図を展開」

 すると、目の前に表示されていた誰が何に投票したというリストとは別
に、四通りの組み合わせが現れた。

  チョコ=本:6名:チョコしかゆずれない
  チョコ=テレビ:1名:どちらもあきらめるしかない
  まんじゅう=本:3名:どちらかをゆずれる
  まんじゅう=テレビ:6名:テレビしかゆずれない

中目:「今ね、多数派は、まんじゅうと本だよね?」
轟:「ああ。だからそれを、まんじゅう=テレビか、チョコ=本の組み合
 わせに変えりゃいいんじゃねぇのか?」
中目:「じゃあ、まんじゅう=テレビの組み合わせにしたとするよ?する
 とね・・・」

  チョコ=本:1名:どちらもあきらめるしかない
  チョコ=テレビ:1名:チョコしかゆずれない
  まんじゅう=本:3名:本しかゆずれない
  まんじゅう=テレビ:6名:どちらかをゆずれる

轟:「・・・てぇことは、駄目ってことかい?」
中目:「今度は、チョコ=本にすると・・・」

  チョコ=本:6名:どちらかをゆずれる
  チョコ=テレビ:1名:テレビしかゆずれない
  まんじゅう=本:3名:まんじゅうしかゆずれない
  まんじゅう=テレビ:6名:どちらもあきらめるしかない

 轟さんは唸っていた。

中目:「ついでに、チョコ=テレビにするとどうなるかも見てみるよ?」

  チョコ=本:6名:本しかゆずれない
  チョコ=テレビ:1名:どちらかをゆずれる
  まんじゅう=本:3名:どちらもあきらめるしかない
  まんじゅう=テレビ:6名:まんじゅうしかゆずれない

奈良橋:「つまりや、誰かにどっちも諦めてもらうんなら、一番少ない人
 数で済ますしか無いいうことか?」
赫:「いつもいつも、同じ人達に我慢してもらうというのは、公平さを欠
 くかも知れませんがね」
中目:「ま、これは練習だし♪」
白木:「でもさ、ほんとに手が無いのかな?」
牧谷:「どういうことですか?」
白木:「いや、YesかNoか、ゼロか1か、そんな選択しか無いのなら、こう
 なっちゃうのかも知れないけど」
七波:「そーいうのはね、坊や。これからイヤでもたくさん出てくるから
 心配しないでおき」

 むっと来たが、AIが割って入った。

AI:「結論が出たようなので、次のステップに進みます。
  今回は3個の質問をします。3個の質問それぞれについて2/3を形成し
 て 頂くのですが、3個のうち、変えていい答えは1個のみとします」
春賀:「今回は投票する前に相談は出来るんですか?」
議事AI:「いいえ。今回は、みなさんが互いを見れないように、仕切りをさ
 せて頂きます」

 すると各議員の間に衝立のような立体映像が現れて、お互いが見えなく
なってしまった。
 次の3つの質問は、『白より、黒』、『赤より、青』、『金より、銀』
だった。
 投票後に30分の時間は設けられていたが、三つとも少数派になってし
まう人達を見つけ出すのに大した時間はかからなかった。

奈良橋:「つーことは、あれか。事前に打ち合わせしとかんと、無理って
 ことやな」
藍沢:「ですねぇ・・・。この抽選議院が設立された趣旨が危うくはなり
 ますが」
白木:「まだ何の損得も実害も無い質問ばかりだから譲り合うのもむずか
 しくないですけど、これが実際の法案になったらと思うと・・・」
中目:「こわいかな、かな?」
二緒:「そうね。人によっては、他の全ての法案の是非はゆずってでも、
 どうしてもゆずれない法案というのもあるでしょうから」
赫:「まさに。おっしゃられる通りですよ」
AI:「それでは、次のステップに進みます」
鈴森:「いい加減、今度はみんなで相談できるんでしょうね?」
AI:「ええ。しかし質問の趣旨が少し違いますが」
鈴森:「どういうこと?」
AI:「先ほどみなさんが話し合っておられた、譲り合う、という仕組みそ
 のものについてです。
  私が今から例を挙げますので、それがうまくいくのかどうか、みなさん
 で自由に検討されてみて下さい。

 ゆずっても良い法案が可決された時は、マイナス1点。
 ゆずれない法案が可決された時は、マイナス2点。
 ゆずっても良い法案が否決された時は、プラス1点。
 ゆずれない法案が否決された時は、プラス2点。

 つまり、自分の思い通りに法案が可決されていっている人には大幅なマ
イナスが。
 逆に、思い通りに法案が可決されていっていない人には大幅なプラスが
ついていきます。
 例えばこれが、全員がほぼゼロ付近で均衡を取る事が可能かどうか、話
し合ってみて下さい」

八神:「人によっては、苦も無くマイナス何十点となるかも知れんが・・・」
内海:「ずっと思い通りにいってない人の為に、誰かが自分のゆずれない
 ものをゆずるかどうか、わかりませんしね」
増満:「それこそ、100個のうち99個をゆずっても、絶対にゆずれない1個
 がある人からしたら、このシステムはあんまり意味が無いのかな」
青月:「でもだからといって、誰が一番犠牲になっているのか、皆が納得
 した基準で指標化しておくのは、無駄じゃ無いと思います」
藍沢:「同感ですね。ただ、全員がゼロ付近でバランスを取れるかというと、
 むずかしそうな気もする」
クリーガン:「どうしてですか?」
藍沢:「なんとなく、なんですが・・・」
牧谷:「ぼく達に、特定のバックグラウンドが無いからですよ」
藍沢:「それは、逆じゃ無いんですか?特定の利権団体とかと接触してれ
 ば・・・」
牧谷:「ぼく達が継続して抽選議員であり続けるのなら、こういった交渉
 には意味があります。お互いに持ちつ持たれつの関係が組める。しかし
 抽選議員に再選はありません。99を捨ててでも1を取れば満足な方も
 いらっしゃるでしょうし、100全てに拘らない方だっているでしょう」
二緒:「もしそうだとしたら、指標はあくまでも目安として扱うべきね」
赫:「ポイントは、あくまでも"ゆずれないもの"をゆずった時とゆずられ
 た時につけませんか?ゆずられた時の借りを示すのにマイナス1点、ゆ
 ずった時の貸しを示すのにプラス1点」
クリーガン:「そうですね」
七波:「・・・ちょいと、お待ち下さいませ。例えば十個の法案があった
 として、その中のどれが、その人にとっての本当にゆずれないものだっ
 たかどうか、どうやって判別するんでございますか?」
牧谷:「人によっては、それがゆずっても良いものだったのに、ゆずれな
 いものをゆずったとして、ポイントを稼ぐこともできますね。そして
 本当にゆずれないものの交渉を有利に進めることもできます」
白木:「それに、議論した結論として、どちらかの意見が変わることもあ
 るでしょうから、ゆずる、ゆずらないだけでの判別もむずかしいんじゃ
 ないでしょうか?」
中目:「ゆずってもいいものが可決された場合、否決された場合でもポイ
 ントつけるのは、だから無意味じゃないと思うな」
増満:「すごく、下世話な想像かも知れないんですが、ポイントのやり取
 りをお金で取引したい人も出てくるんじゃないですか?」
青月:「金銭的な取引というのは抽選議員間で認められてない筈だし、ポ
 イントそのもののやり取りは、他の議員達が認めないと難しいでしょう
 ね」
AI:「では、ここで皆様の票決を取ってから、次のステップに進みます。
 先ほどのシステムが有効だと思われる方は挙手を。そう思われない方は
 挙手しないで下さい」
鈴森:「この結果で何かが決まるの?」
AI:「いいえ。あくまでも皆様の意見の表明としてカウントさせて頂くだ
 けです。それでは10秒以内に挙手をお願いします」

 結果は、自分を含めて7本ほどの挙手だった。

 どちらかと言えば積極的に反対で挙げなかったという人よりも、保留と
いう態度で、手をはっきりとは挙げなかったり、挙げかけて下げたりとい
う人が少なくなかった。

AI:「それでは、次のステップに進みます。これから五つの質問をします
 が、答えはこちらで用意したものを箱の中からみなさんに引いて頂きます。
  答えは、『はい』か『いいえ』で書かれていますが、ゆずれない答えは
 黒字ではなく、赤字で書かれています。
  中には、ご自分の考えとは違う答えを引かれる方もいらっしゃるでしょ
 う。しかしこれは本番の為の練習として行動して下さい」
八神:「ゆずれない答えをゆずらずに、全体として2/3を形成すればいいの
 かね?」
AI:「可能な限り、その実現に向けて努力してみて下さい。それと、この
 練習の結果を持って、みなさんの間の代表を選んで頂きます。代表に選
 ばれた方には、抽選議院副議長を務めて頂きます。代表の選出方法は、
 みなさんにお任せします」

 周囲がざわめいた。

AI:「抽選議院副議長は、議長の様に票数の特権などは得ませんが、抽選
 議員代表として内閣閣議や、両院協議会に出席を求められる事があります。
  平常時には形式的な身分ですが、抽選議員内での議事進行等とりまとめ
 全般もお願いすることになります」
中目:「非常時には?」
AI:「首相代行を務めて頂く場合もございます」

「首相代行!?」

 ざわめきがさらに大きくなった。

AI:「はい。首相が不慮の事故、病気、テロ等で死亡、もしくは執務不能
 な状態に陥った場合、通常、次の首相は選挙院の直接選挙枠議員の間から
 選ばれます。

  しかし、大規模災害やテロ等で、直接選挙枠議員全てが死亡または執務
 不能な状態に陥った場合、間接選挙枠議員の間から選ばれます。

  その間接選挙枠議員達も同様の被害によって全滅した場合、道州枠議員
 の間からではなく、抽選院議員代表が、半数以上の道州枠議員承認を得た
 上で、首相代行を務める事になっております。

  ただし、道州枠議員も全滅していた場合、その承認プロセスは不要と
 なり、憲法裁判所の主席判事七名がその承認プロセスを代行します」

赫:「権限等はどうなっているのかね?」
AI:「首相代行は、首相の持つ全ての権限を与えられますが、着任期間は、
 次の選挙院議員と首相が選出されるまでとなっております」
鈴森:「なんだか、物騒な話で怖いわねぇ」
牧谷:「次のLV災害で、人類は絶滅するかも知れないって予測もあります
 から、大袈裟でも無いかも知れませんね」
クリーガン:「実際に、二度のLV災害の前後で、国会議員の多くがウィル
 スにやられたり、その混乱に乗じたテロやクーデターで死傷したケースは、
 世界中に何十件と起きましたしね。対策は必要でしょう」
七波:「もし、その首相代行が死んでしまったりしたら、どうなるんでご
 ざいます?」
AI:「次の首相代行を、抽選議員の間から選んで頂きます」
奈良橋:「最期の一人になった時は、そいつが日本の支配者ってわけや」
二緒:「その時日本で何人くらい生き残っているか、わかったものでもな
 いけどね」
春賀:「間違いないでっしゃろ、ほほほ」

 皆、釣られて笑ったが、表情はどれも引きつっていた。

藍沢:「しかし、いつの間にそんな法案が出来ていたんだか・・・。皆さ
 ん、ご存知でした?」
轟:「おれぁ、とんと思い当たる節がねぇがなぁ」
 おれ以外にも何人かがうなずいていた。
牧谷:「法律なんてそんなものですよ。真に重要な法案こそ、いつの間に
 か、ひっそりと成立してるものです」

AI:「2003年に有事関連三法、2004年に有事関連七法が成立した流れで、
 2005年から、緊急事態関連法案の協議が当時の与野党間で始まりました。

  その後2009年の第一次LV被害、2012年の関東大震災、2013年の中部南海
 大震災の体験を経て、2014年に道州制導入と無税金政府方針を定めた暫定
 新憲法と同時に緊急事態基本法が成立しました。

  2020年の新憲法成立時には、開戦や終戦規定を含んだ安全保障基本法が
 導入されています。

  現行の首相代行の制度が固まったのは、2024年の参議院廃止法案及び抽
 選議院設立法案が国民投票で可決された後、2025年の事になります。それ
 ぞれの法案の詳細については、後ほどお付きのAIに確認して下さい」

青月:「とてもじゃないけど、一度に覚えきらないわね」
AI:「抽選議員の皆さんに求められているのは、記憶ではなく、判断です。
 必要な情報はその都度提供可能です」
内海:「励まされてるんだか微妙ななぐさめね」
白木:「いや、ほんとそうですね」

 おれは頭をかいた。

AI:「それでは本題に戻ります。今から五つの質問をします。その答えは、
 箱の中からみなさんに引いていただきます。
  黒字で書かれていれば、ゆずれる答え。赤字で書かれていれば、ゆずれ
 ない答え。そして、ゆずれない答えをなるべくゆずらずに、全体として2/3
 を形成して下さい。
  また、最終的な結果から、みなさんの間で、抽選議院副議長となる抽選
 議員代表を選らんで下さい」

奈良橋:「答えは教えあっていいんか?」
AI:「判断はみなさんにお任せします」
鈴森:「答えの交換は?」
AI:「認められません」
牧谷:「制限時間は?」
AI:「意見の形成と抽選議院代表選出までを24時間以内に。その代表
 が選出された後、みなさんには抽選議院で審議する法案の審議順を決めて
 頂くことになります。この決定までにさらに24時間が認められています」
クリーガン:「制限時間内に代表も決められず、審議順も決められなかっ
 た場合はどうなるの?」
AI:「代表は選挙議員達の投票で抽選議員の間から選ばれ、審議順も選挙
 院の要請通りになります」
八神:「最初の二十四時間の制限は、どの時点から始まるんだ?」
AI:「私が五つの質問を出し終わり、みなさんがその答えを引き終わった
 時点からです」
内海:「その前に休憩を挟むことは認められるの?」
AI:「いいえ」
中目:「今すぐトイレ行きたーい!、って言っても?」
AI:「数分で済みますので我慢して下さい」

 一同はどっと笑った。
 その間に、箱を抱えたAIが五人ほど部屋に入って来た。

AI:「では、一問目、『みかんより、りんご』」

 箱を持ったAIが中目の前に来て、次におれの前に来た。
 クイズ番組とかで良くある、中身が見えなくて、箱の中に手を入れて球
を取るというクラッシックなあれだ。
 球はピンポン球くらいのサイズで、触っただけだとそれが赤字なのか黒
字なのかは判別がつかなかった。

 そうやって一問目の質問と答えの引きあてが終わると、二問目は八神さ
んから、三問目は中目からという感じで、答えを引いていった。

ちなみに二問目は、『海より、山』。
三問目は、『太陽より、月』。
四問目は、『お金より、愛』。
五問目は、『生より、死』。

 おれの答えは、一問目が黒字の「はい」、二問目と三問目が黒字の
「いいえ」、四問目が何も書かれていない白球。五問目が赤字の「いいえ」
だった。
 こうして、首相代行候補を選び出すプロセスが始まった。


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